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第1回:
スポーツマーケティングの専門性
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2005/03/12 |
スポーツ・マーケティングという言葉を良く聞きます。スポーツ経営学/スポーツマネジメントの中でもスポーツ・マーケティングは重要な柱の一つです。ただ、疑問に思う人がいるかもしれません。「なぜスポーツ・マーケティングと言うのだろうか?」
一般のマーケティングとスポーツ・マーケティングでは何が違うのだろうか?例えば音楽・マーケティングやパソコン・マーケティングという言葉を聞くことはありません。では何故スポーツ・マーケティングと言われるのか?
様々な意見があると思いますが、スポーツマーケティングと他の産業のマーケティングとでは決定的に異なる点があるからだと思います。最近のクラス研究で学んだことを、より明確化できるよう自分自身の熟考の結果、マーケティングMIXの基本的四大要素である4P、Product(製品) Price(価格) Place(場所)Promotion(販促)において劇的な違いがあることに結びつきました。
その違いを説明する前に、ここで話しているスポーツ・マーケティングは特に「スポーツのマーケティング」の話をしていることを言及しておきます。広瀬一郎氏は宣伝会議2004年7月号でスポーツ・マーケティングは基本的に「スポーツのマーケティング」と「スポーツを通じたマーケティング」の2つがあると述べていたので、ここでのスポーツ・マーケティングを明確にしておく必要があると感じました。
Product
スポーツという製品は実は内容のわからないもので製品の説明はできません。他の産業の製品は、どのようなものでどういったパフォーマンスをするかわかります。例えば、テレビはどのように動いて、どのように使われるかほぼわかります。音楽コンサートにおいても、歌手は何を歌うかなどは少なくとも歌手は知っていますし、歌う順番などが決まっています。 しかし、スポーツはそうではありません。例えば、ボストン・レッドソックス対ニューヨーク・ヤンキースの試合において、どう試合が展開されるかなどは到底検討もつかず、選手たちもわかりません。ですから、試合前に対戦カードや注目点は言えても、どうパフォーマンスするかなどは説明できません。これはスポーツならではの特徴です。
Price
アメリカの四大プロ・スポーツでは、消費者の一試合のチケットに支払う平均金額は、1試合において費やす金額の50%以下である調査報告があります。つまり、チケット代という一番の主要販売物が消費金額の主要部分ではないということです。 これは他の産業であまり聞きません。例えばパソコンを20万円で買って、パソコンを楽しむためのインターネットやプリンターの購入などに一度に20万円以上掛けるでしょうか?スポーツではチケットを購入したお客様がスタジアムに行き、そこで駐車場代、飲食代、そして帽子などの関連グッズへの購入代などの合計がチケット代を大きく越すということです。
Place
スポーツチームは場所を選べません。例えばニューヨーク・ヤンキースが試合を他の場所でしたいとしてもそれは特別な理由(日本での開幕戦)やアウェーの試合を除いてはできません。チームの移転も、勝手な判断ではできません。他の産業では、どこで製品を販売するかは、基本的に自由に企業が決めれます。こういったところでも、違いは明らかです。
Promotion
そして最後に、プロモーション。他の産業はライバル会社がいなくなると喜びますが、スポーツは敵チームが必要です。自動車業界でトヨタ自動車のライバルである日産自動車やホンダがいなくなればトヨタ自動車は喜ぶでしょう。しかし、ニューヨーク・ヤンキースにとって、ボストン・レッドソックスがいなくなったとすれば、それはニューヨーク・ヤンキースにとってマイナスどころか試合もできません。ということは、自分の製品(チーム)のプロモーションだけを考えても、実現できないのがスポーツです。事実、元ニュージャージー・ネッツの社長兼COOであるJon Spoelstra氏の著書「Ice to the Eskimos」の中で、彼は当時弱小チームだったネッツのプロモーションに対戦相手を強調したゲーム・プロモーションを行ったという一つの成功例があります。
以上の4Pにおいて他の産業とスポーツ産業が明らかに違うことがスポーツ・マーケティングという独自の名前を創り出した理由の一つであると結論付けました。また、この違いの理解は、スポーツのマーケティングを行う上で重要であると思います。
(2005年3月12日 T.S.)
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