
Andrew L. Kreutzer, Ph.D.
Coordinator
Sports Administration &
Facility Management Program
Ohio University
『この10年、スポーツビジネス界のグローバル化が進む中で、我々のプログラムにとって留学生の果たす役割はますます重要になっています。特に近年、日米のスポーツ界の関係が密接になっていくにつれて、日本人留学生の存在は非常に大切な存在です。
野球界における国際化は、スポーツのグローバル化のひとつの例だと思います。10年前、野茂選手がメジャーに挑戦して以来、多くの日本人選手が活躍してきました。「世界で最高の選手を挙げなさい」と聞かれたら、私は何人かの日本人選手の名前を挙げるでしょう。それは、単に彼らがメジャーリーグに与えた功績だけでなく、アメリカ人の国際理解という意味で多大な影響をもたらしたからです。
野球は全世界200ヶ国で行われているスポーツです。にもかかわらず、ときにアメリカ人は、「野球はアメリカのものだ」、「アメリカ人が一番野球を知っている」といった考え方をします。そういう中にあって、例えばイチロー選手は、たゆまぬ努力で、全メジャーリーガーの中でも最高の技術とプレーを我々に見せてくれています。彼のプレーを見て賞賛しない人は誰もいないでしょう。スポーツを通じた国際理解という点で、彼の果たした役割は非常に大きいと言えます。
オハイオ大学スポーツ経営学プログラムに来る学生に対して、我々は将来スポーツ界のリーダーになれる人材を望んでいます。そして、野球界のみならず、多くのスポーツにおいて国際化が進んでいく中で、常に実践的なプログラムを提供し続けるためには、優秀な日本人学生に我々のプログラムを選んでもらうことは極めて重要です。学生の皆さんに、将来スポーツビジネス界でのリーダー的存在になっていくための機会と教育の場を提供していくことが、我々の使命だと思っています』
Andrew L. Kreutzer
2005年4月18日、オハイオ大学スポーツ経営学プログラムの学科長(当時)であるDr. Kreutzerにインタビューを行いました。Dr.Kreutzerは1980年に同学科を卒業、他大学で教鞭を取られた後、1995年から2005年まで同プログラムの学科長を務めていました。
上記メッセージとともに、プログラムの今後の改革予定、日本人学生に期待するところなどを語っていただきました。
― まず最初に、オハイオ大学のプログラムは他大学のスポーツ経営学(スポーツマネジメント)プログラムに比べて留学生の数が多いと思います。なぜこれほど積極的に入学させているのでしょうか?
Dr.Kreutzer オハイオ大学では、30年以上も昔から常に留学生を採用してきました。我々にとって、海外の優秀な学生に来てもらうことは極めて重要なことであり、またスポーツが国際ビジネスとして常に発展していることを意味しています。世界中の学生が学ぶ環境を創るということは、留学生にとってのみ有益なわけではなく、アメリカ人学生にとっても非常に大切なことです。
アメリカ人の学生は、留学生から他国のスポーツとスポーツ環境を学ぶことができます。そして我々は、このことが教育的な価値にもつながると考えています。
― 数多くの留学生がいる中で、過去20人以上の日本人学生が同プログラムを卒業してきました。プログラムにおいて日本人学生に期待していることはありますか?
また今まで日本人学生が貢献してきたことはなんでしょうか?
Dr.Kreutzer 日本人学生に期待するところは、他の学生に期待するところと基本的に違いはありません。向上心のある優秀な学生に来てほしいということです。ただ日本人学生は、私がこのプログラムに来る前から非常に重要な存在でした。我々のプログラムを卒業した多くの日本人が、すでに日米のスポーツビジネス界で活躍されています。
特に日本の野球界との関係が、我々のプログラムと日本人学生との間における最も顕著な例だと思います。
日本は既に発展したスポーツ産業を持っています。しかし、アメリカはさらに発展しているのも事実です。我々のプログラム、そしてアメリカのスポーツ界での経験をステップに、是非日本のスポーツ界におけるキャリアアップを実現していってほしいと思っています。
― オハイオ大学スポーツ経営学プログラムの強みと弱みはなんでしょうか?
Dr.Kreutzer 一番の強みは、現在MBAとの両学位取得のカリキュラムが義務付けられていることでしょう。この事は、近年のスポーツ界が、より専門的なビジネス知識を要求しているともいえます。事実MBAで学んだことは、他のスポーツ経営学/スポーツマネジメント学生との競争において優位に働いています。
また、卒業生のネットワークが非常に強固なことも、オハイオ大学のプログラムの大きな特徴です。我々のプログラムの卒業生は皆、大きなファミリーといった意識の中でお互いの責任感や義務を果たしています。それは単なるビジネスとしてのネットワークではなく、より強い絆で結ばれているのです。我々スポーツビジネスの世界に身を置く者にとって、卒業生との関係は非常に大切です。
多くの卒業生が、大学のプログラムに様々な実践的なノウハウをフィードバックし、また学生のインターン探しなどでも、オハイオ大学の学生 というだけで親身に相談にのってくれます。このようなプログラム全体の雰囲気が、これまでの私達のプログラムの成功に大きく繋がっていると思います。
短所は...中にいる人間には正直分かりにくいところがあります。ただ他大学のプログラムがより有益な情報を持っているかもしれないので、常に周りの状況を見るようにしています。その中で我々が改善できる点に関しては、日々改めていくことが大切だと思っています。
― オハイオ大学スポーツ経営学プログラムにおいて、将来的な改革プランはありますか?
Dr.Kreutzer カリキュラムの発展はスポーツ産業をベースに考えています。我々の過去のカリキュラムは、常にスポーツ産業界からのフィードバックによって作られてきており、将来のカリキュラムもまた、そのフィードバックによって作られていくでしょう。確かに、大学の研究機関である我々が学術的な研究を推し進めていくことはもちろん重要です。
ただ最も大切なことは、我々がどのようにスポーツ界の発展に貢献できるかということです。
また近年は、スポーツビジネスのグローバル化にあわせて、カリキュラムもより国際的にすることを考えています。すでに中国の大学と学術的パートナーシップを結んでおり、アフリカでも同様のプランを進めています。近い将来、日本とも何か協力関係を築くことで、Athensに留学する以外の方法で、日本の皆さんにスポーツ経営分野の教育の場を提供できたらと考えています。
― 来年から新しい教授が2名加わると聞いております。これも改革プランの一つでしょうか?
Dr.Kreutzer 正しくは、来年に1名、再来年にもう1名加わる予定です。3年後には、もうひとり加えることも視野に入れています。オハイオ大学は25名の大学院生に加えて400名の学部生(Sport
Management専攻)がスポーツ経営学/スポーツマネジメントの勉強しております。バラエティーに富んだ教授を揃えることで、学生により質の高い教育環境を提供できると考えています。
ちなみに、来年加わる予定の教授はプログラムで唯一の女性教授になるでしょう。彼女が、学生はもとより、我々教授陣にも、新しい見方、視点をもたらしてくれるものと期待しています。
― 数年前までMSA(Master of Sports Administration)のみのカリキュラムだったのが、現在ではMBAとMSAのDual Degreeプログラムとなりました。学生の質という点で何か変わったところはありますか?
Dr.Kreutzer 特に大きな変化は見られません。MSAからMBA/MSAのDual Degreeになって変わった事といえば、今まで1年間の努力で済んだものが、2年間努力をしないといけなくなったことでしょうか。ただ先ほどもお話したように、MBAの学位を得ることは、現在のスポーツ界に出る準備という点において非常に重要な位置づけとして我々は捉えています。
― 人口2万人のアセンズにあるオハイオ大学は、大都市にある大学に比べて実際のスポーツイベントに触れる機会が少ないと思います。実践的なスポーツ環境をどうやって学生に提供していこうと考えていますか?
Dr.Kreutzer 確かにアセンズは小さな大学街です。ただ我々は、卒業生を通じて様々な実践的なプログラムインターンを経験する機会に恵まれています。
また地元のスポーツイベントにとっても、オハイオ大学のMSAプログラム、そして学生の存在は非常に重要です。
多くの学生が、小さな街の小さなスポーツイベントだからこそできるような高い責任の問われる仕事を経験しています。このような経験は、大きな都市の大きな組織のイベントではすることができないでしょう。仕事をする上での基本的なノウハウ、コンセプトは、イベントの大小でそれほど違いはありません。このような小さなイベントを通じて得た自信が、彼らが卒業後、より大きなイベントに携わることになった時に生きてくると思っています。
― 近年スポーツ経営学(スポーツマネジメント)プログラムを提供する各大学が、特徴のあるカリキュラムを提供しています。例えば、オハイオ大学のプログラムの卒業生でもあり、現在アリゾナ州立大学のスポーツMBAプログラムのディレクターとして働いているJim
Kahler氏(当時:現在はオハイオ大学スポーツ経営学プログラムの学科長)は、「我々のプログラムはスポーツマーケティングに特化している」と言っています。何かオハイオ大学が特化している分野はありますか?
Dr.Kreutzer 幸運にも我々は、スポーツビジネスの一つの分野に特化するようなことにならずに済んでいます。オハイオ大学では、大学スポーツ、プロスポーツ、スポーツマーケティングといった専門性を、我々が作り上げるのではなく、学生自らが、自分の将来のキャリアプランにあわせて決めることができます。そのために我々は、学生が自分達の興味のある分野に特化できるようバラエティーに富んだカリキュラムを設けています。その結果、これまでオリジナリティーのあるスポーツ経営の専門家を育てることに成功してきました。現在スポーツ界の様々な分野で活躍している卒業生がその証明でしょう。
― 今までプログラム全体で1000人を超える卒業生がいます。
オハイオ大学スポーツ経営学プログラムを卒業した学生は、どうしたら成功したといえるのでしょうか?
Dr.Kreutzer ひとつには、学生自身がオハイオ大学に来て良かったと思えるかどうかということです。
オハイオ大学で得られた知識と経験に満足して卒業していけたかどうかだと思います。
成功の定義は人それぞれ異なります。極端な話、たとえ一人のアスレチックディレクターがいなくても、一人のゼネラルマネージャーがいなくても、その他スポーツビジネス界における著名な卒業生がいなくても、学生ひとりひとりがオハイオ大学での生活に満足してくれたら、我々のプログラムは成功だといえるかもしれません。10年後20年後、彼らが、オハイオ大学に来て良かった、オハイオ大学で勉強したことを誇りに思ってくれることが、私達の役割だと思っています。
― 最後に、スポーツ経営学のパイオニアとして、今後どのようにしてプログラムのレベルを保っていこうとお考えですか?
Dr.Kreutzer 最も大切なことは、常に卒業生とコミュニケーションをとり続け、彼らの意見に耳を傾けていくことです。 我々の多くの卒業生は、各スポーツ界のリーダーとしてスポーツビジネスの最前線を体感しています。彼らから様々な実践的なノウハウを
フィードバックしてもらうことができます。また卒業生と強い関係を保つことによって、彼らのオハイオ大学に対する思い入れも変わってきます。 プログラムのクォリティーと名声を維持し続けることは、彼らのクォリティーと名声でもあるからです。
もちろん幅広い視野に立つべく、卒業生以外のスポーツ界で活躍されている多くの方々からもきちんと意見を聞くことも重要です。
先ほどもお話したように、我々にとっては、学術的な研究を進めることと同時に、スポーツ産業の発展にいかに貢献できるかが大切です。彼ら卒業生とより良い関係を持ち続ける事ができれば、10年後、20年後も、
スポーツ経営学のパイオニアとして、魅力あるプログラムを提供し続けることができると信じています。
(2005年4月18日)
※2005年12月、オハイオ大学スポーツ経営学プログラムの新学科長にJim Kahler氏が就任しました。Kahler氏は1981年に同プログラムを卒業後、クリーブランド・キャバリアーズ(NBA) のセールス・マーケティング担当上級副社長、
アリゾナ州立大学スポーツMBAプログラムのExecutive Directorなどを経て、24年ぶりにオハイオ大学に戻ってきました。Kahler氏からのメッセージも、近日公開させていただく予定です。