第5回:国際スポーツイベント開催による経済効果
2005/05/16

今学期、スポーツ経営学科のリサーチクラスの授業で、「国際スポーツイベント開催による経済効果」に 関する調査をしました。2002年、日韓共同で行われたサッカーワールドカップでは、国内全体で3兆円を超える試算結果も発表されています1。ワールドカップやオリンピックなどのメガスポーツイベントの開催は、ホスト国にとって大きな経済効果があると考えられているのが一般的です。

ただ今回色々な論文を調べていくと、多くの研究が、 「国全体、長期的なマクロの視点から見ると、国際スポーツイベント開催による経済効果はほとんどない」 という結論に達していることが分かりました。確かに2002年のワールドカップ開催では、海外から多くの外国人が日本を訪れました。やっとのことでチケットを手に入れ試合を見に行かれた日本人も大勢いると思います。ワールドカップ大会期間前後にハイビジョンやプラズマテレビを買った人もいるでしょうし、CS放送の契約者増といった消費を促す効果があったのも事実です。それらすべて、「ワールドカップ開催による経済の活性化」と言えると思います。一方で、国全体から見たら、開催都市以外の周辺地域ではホテルの宿泊率の低下や観光客の減少などが考えられます。長期的視点に経てば、大会終了後その反動で、電化製品の購入や旅行などの消費が抑えられるといった影響も無視できません2

また、国際スポーツイベント開催における経済効果研究の一つのテーマとして、「大会後の施設の有効利用」という問題があります。上記3兆円という試算には、ワールドカップ開催のために用意された7つの新スタジアム、そして3つのリニューアルスタジアムの建設費が含まれています。ただ大会が終われば、ワールドカップ以上のソフトはありえません。神戸ウィングスタジアムは、ワールドカップ開催時42,000人収容だったスタジアムを最大34,000人収容に衣替えすることで、スタジアム維持のコスト削減に努めています。しかしワールドカップのために作られた計7つのスタジアムが、その後どれだけ有効に維持、運営されているのかは、まだまだ調査が必要なところだと思います。

このように、国際スポーツイベントの招致には、経済効果の上でのマイナス面も少なからず存在します。しかしながら、オリンピックやワールドカップ開催ともなれば、今なお世界の各都市が高いお金を払って招致合戦を繰り広げています。今年7月に決定される2012年の夏のオリンピック開催地には、当初、計14都市が立候補していました。果たして、彼らが国際スポーツイベントを誘致しようとする理由は何なのでしょうか?先日、過去5回、アメリカでのオリンピックやワールドカップなどの運営に携わってきた方とお話をした時、「国や自治体がスポーツイベント誘致する大きな目的の一つには、都市のブランドイメージの向上にある」 と言われていました。確かに、世界各地の新聞、テレビ、雑誌などで、開催都市の名前が連日掲載、連呼されれば、その宣伝効果は想像をはるかに超えます。1998年にオリンピックが開催されたことで、"NAGANO"という名前を知った海外の方もたくさんいると思います。では、そのブランドイメージの向上と、大会開催による莫大な経費とのバランスをどう評価するのか...政治的な思惑とも絡み、おそらくそれはイベントを開催する都市にとっての世界共通のテーマではないでしょうか。

現在、日本の自治体の多くは財政難です。お金のかかる国際スポーツイベントを誘致、開催する体力はどんどんなくなっているように感じます。そのような中、東京都が平成17年度の重点事業として、「ニューヨーク、ロンドンと肩を並べるような3万人規模の東京大都市マラソンの開催」 を提案しました。石原都知事自ら記者会見で、「ニューヨークやロンドンでは、大勢の観光客を呼び込んで、莫大な経済効果をあげている。ニューヨークマラソンが160億円、ロンドンマラソンが70億円の経済効果があると言われている。アジアで最初の大都市マラソンをぜひ実現したい」 とおっしゃっています3。マラソン好き、陸上好きの一人として、同大会開催の早期実現を心から期待してやみません。しかしながら一方で、単純な経済効果だけでは、国際イベント開催によるメリットは非常に限られているというのも事実です。石原都知事、そして東京都が、都のブランドイメージ向上といった面も含めて、このイベント開催意義を どのように評価していくのか、今後大いに注目していきたいと思っています。


 (参考文献)
   1. 電通総研 (2001) 『2002 FIFA ワールドカップ日本開催の経済波及効果』
      http://www.dentsu.co.jp/news/release/2001/pdf/2001061-1220.pdf

   2. 商工中金 (2002) 『中小企業の地域別景況 (2002年9月調査)』
      http://www.shokochukin.go.jp/pdf/cb2002chiiki9.pdf

   3. 東京都公式ホームページ (2004) 『石原知事定例記者会見 2004年9月3日』
      http://www.metro.tokyo.jp/GOVERNOR/KAIKEN/TEXT/2004/040903.htm


(2005年5月16日 M.S.)


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